中央労働委員会(中労委)の命令の要旨 2004.11.4付 (2004.11.30交付)
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 初審(神奈川地労委)の “労働者(申立人)側勝利” の救済命令を不服として東芝(会社)が再審査を申し立てていた中労委において、再び “労働者(再審査被申立人)側勝利” の救済命令が下されました。 多くのみなさんのご支援に深く感謝申し上げます。 ありがとうございました。
 なお、第一次の申立人は、袖山、海老根、城間、下野、内田、本田、鈴木、五十嵐、米村、金子の各氏です。


(注)「東芝の職場を明るくする会」の「評価と決意」は、→ こちら


 中労委命令の 「主文」 と、 「理由」 の要旨および結論部分は、下記の通りです。

   (次の項目をクリックすると、そこへジャンプします)

 主 文

 理 由
  第2 当委員会が認定した事実
    3 会社の労務管理活動
      (1) 職場管理者教室への従業員の派遣
      (2) 東芝扇会の活動        (注:インフォーマル組織)
      (3) 会社の現状に関する文書  (注:いわゆる“秘密文書”)
  第3 当委員会の判断
    2 労働組合の行為に当たるか否かについて
    3 格差の存否について
    4 本件格差の合理的理由の存否について
      (1) 成果主義的運用と人事権の行使
      (2) (注:再審査被申立人10名)の業務遂行状況
    5 不当労働行為の成否について


 (備考: 労働組合法の抜粋 … 第7条 不当労働行為)


 主 文

T






















初審命令主文を次のとおり変更する。          (注:「初審」 は神奈川地労委)

 再審査申立人株式会社東芝 (以下「会社」という。) は、再審査被申立人 (注:10名の氏名。ここでは省略。) に対し、平成6年7月1日以降、それぞれの同期同学歴者の中で中位者が就いている資格にあるものとして取り扱わなければならない。但し、東芝労働組合 (以下「東芝労組」という。) の組合員が就いている資格を限度とする。

 会社は、(注:再審査被申立人) に対し、平成6年4月1日以降、それぞれの同期同学歴者の中で中位者が就いている職群・等級にあるものとして取り扱わなければならない。但し、東芝労組の組合員が就いている職群・等級を限度とする。

 会社は、(注:再審査被申立人) に対し、平成6年8月30日以降、それぞれの同期同学歴者の中で中位者が就いている役職あるいはこれに相当する職にあるものとして取り扱わなければならない。但し、東芝労組の組合員が就いている役職を限度とする。

 会社は、(注:再審査被申立人) に対し、平成6年4月1日以降、第1項ないし第3項で是正された資格、職群・等級及び役職あるいはこれに相当する職にあるとして、それに相当する基準賃金 (扶養加給、特殊作業加給を除く。) 及び賞与を支払わなければならない。

 会社は、(注:再審査被申立人) に対し、第1項ないし第4項による是正後の賃金及び賞与の額と現に支払った額との差額に相当する額に、年率5分相当額を加算した額の金員を支払わなければならない。

 会社は、(注:再審査被申立人) に対し、本命令受領後、速やかに下記の文書を手交しなければならない。
                         記
 当社が、貴殿らの資格、職群・等級、役職、基準賃金及び賞与について不利益な取扱いをしたことは、中央労働委員会において労働組合法第7条第1号及び第3号に該当ずる不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

 平成  年  月  日

(注:10名の再審査被申立人。ここでは省略) 殿

                                 
株式会社東芝
                                   代表執行役 岡 村  正 (印)


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  理 由

 第1 事案の概要
      (中略)

 第2 当委員会が認定した事実

  1 当事者
       (中略)

  2 (注:再審査被申立人10名)の組合活動
       (中略)

   3 会社の労務管理活動

   (1) 職場管理者教室への従業員の派遣

会社は、将来の職場のリーダーを育成する目的で、昭和37年に設立された労働問題のコンサルタント機関である近代労使研究会議が主催する京浜職場管理者教室に、同44年6月開講の第1期から業務命令で従業員を派遣してきた。

同47年に実施された第13期京浜職場管理者教室のカリキュラムには、左翼問題に関する講義が長時間組まれていた。同様に、同62年に実施された第73期の同教室のカリキュラムにも左翼問題に関する講義が長時間組まれていた。

なお、「第73期京浜職場管理者教室開設要綱」 には、開設の目的として、企業内反社会的分子対策における労使いずれかの役割を担う層、有能な職場管理者層、職場におけるインフォーマル・リーダー層及び労組リーダー層を育成すること等が記載されていた。

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   (2) 東芝扇会の活動          (注:インフォーマル組織 (非公然・秘密組織))



























 東芝扇会の設立

(ア) 昭和49年4月1日、会社から派遣された職場管理者教室の修了者を会員とする東芝扇会が結成された。同会は、事務局を東京都中央区にある近代労使研究会議内に置いており、その会則には、「各支部会員の親睦と相互啓発を通じて明るい職場つくりに寄与することを目的とする自主活動の連合組織である。」 と記載されていた。

 会員数は、同58年時点で2,500名を超えていた。

(イ) 東芝扇会には、小向工場に達磨の会、柳町工場に柳扇会、堀川町工場に津々路会など各事業場に支部があり、その前身となった組織は、昭和45年頃から各事業所に設立されていた。

 東芝扇会の活動に対する会社の対応は、東芝扇会及びその支部において、会社の勤労担当者が事務方として支えていたこと等があった。

 さらに、同53年に開催された5周年記念全国研修会では、会社の専務が記念講演を行ったり、同54年に開催された扇会中央総会では、同総会の司会を勤労部主査が、まとめを労働担当課長がそれぞれ行っている。

 また、平成4年から東芝扇会の名称は使用していないものの、同9年には、東芝扇会の事務局及び支部はないが、会社が派遣している職場管理者教室の修了者が各事業所単位で自己啓発や相互啓発を行っていた。


 機関誌 「おおぎ」 の発行等

(ア) 東芝扇会は、近代労使研究会議名義で昭和45年から発行されていた 「おおぎ」 を機関誌としていた。

  a  昭和45年12月21日付け 「おおぎ」 創刊号には、「東芝玉川工場の民青同対策(労組役選の勝利のための推進と教訓)」 と題する論文が、また、同51年12月1日付け 「おおぎ」 には、「自分たちと目的を異にしている政党の人たちがいますと当然明るい職場づくりは阻害されますね」 という座談会での発言内容がそれぞれ掲載されていた。

  b  昭和52年12月1日付け 「おおぎ」 に掲載された初鹿真 (以下「初鹿主査」という。) の 「われわれ 『扇会』 運動発展のために」 と題する特別寄稿文には、「特定イデオロギー集団からの組織防衛については労使共同の敵として対処すべきことは当然である。」 と記載されていた。

 なお、初鹿主査は、会社が不定期に採用していた警察出身者の一人であり、同年8月1日付けで堀川町工場総務部勤労課勤労調査主査に、同年12月1日付けで同工場専門主査にそれぞれ発令されていた。

  c  昭和55年6月1日付け 「おおぎ」 には、「5061作戦」 と題し、「(小向支部において)昭和50年6月1日をもって、共産党及び同調集団のビラを受け取らない運動を実施。受けとる者ほとんどなし。」 との記事が掲載されていた。

  d  昭和59年6月1日付け 「おおぎ」 に掲載された志田鉱八 (以下「志田主査」という。) の特別寄稿文には、「扇会各支部を訪問させていただき、・・・でき得るだけ早く扇会事務局としての機能を、と考えた挙句のこと・・・」 などと記載されていた。

(イ) 東芝扇会は、昭和54年3月1日に 「われわれの基本理念と活動の原則」 と題する冊子を発行した。

 この冊子の 「実践活動」 と題する部分には、
「 (1) 積極的に組合活動に参画する。 (2) 職場においては、一般組合員との接点となり、労組役員とよく連携し、その健全な発展のために協力共同の立場で活動する。 (3) 労組の選挙においては、特定イデオロギーを排し、健全思想の人を支持する。 (4) 労組への政党の介入には毅然たる態度で対処する。」 と記載されていた。


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  (3) 会社の現状等に関する文書    (注:本社勤労部作成の いわゆる“秘密文書”)


















 勤労部労働担当名義の 「左派一般情勢と当社の現状(年間総括)」 と題する昭和48年8月10日付け文書 (以下「48年文書」という。) には、「当社の問題者 (A、B、C、H) 総数は530名である。対前年比では+40名となっているが・・・」 などとして、全国の事業場別にそれぞれの問題者の氏名、生年月日、所属、資格等が記載されており、その中に、(注:再審査被申立人のうちの6名) の名もあった。

 また、同文書には、「職制教育の層的拡大については、・・・主任クラス以上の(左)に対する問題意識はかなり高まったものと思われる。」、「健全グループの育成と組織強化については、全社の 『おおぎ』 会メンバーも1000名を越え、従来の京浜、関西職管に加え、8月から九州職管(2泊3日)方式も開設した。京浜地区事業所で 『おおぎ』 未結成のところは、(向)(タ)の二事業場((ト)は8月末結成予定)であり、特殊事情はあるものの全社的組織の立場で指導していきたい。」 などと記載されていた。

 さらに、昭和50年1月16日付け 「左派一般情勢と当社の現状(年間総括)」(以下「50年文書」という。) には、「当社の問題者総数は495名である。」 などとして、全国の事業場別に問題者のそれぞれの氏名、生年月日、所属、資格等が記載されており、その中に、(注:再審査被申立人のうちの6名)の名もあった。

 また、同文書には、「組合役員対策」の資料として、「49年度役員選挙に対する問題者の立候補及び当落状況」 などがあり、また、「当社の貴重な人材的資産である 『扇会』 の全社連合組織化を4/1発足させ、自主活動体制を確立した。」 などという記述があった。

                               (中労委命令書の第17〜21頁)

  4 処遇制度について
        (中略)
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 第3 当委員会の判断

  1 却下の主張について
      (中略)

  2 労働組合の行為に当たるか否かについて

 以上 (注:再審査被申立人10名の活動) のいずれについても組合員の労働条件の維持改善その他の経済的地位の向上を目指し、かつ、所属組合の自主的・民主的運営を志向している行為と認められるので、新聞の発行・配布、労働基準監督署への申告等について政党支部名等を冠したものがあるとしても、全体として組合活動であると判断すべきであり、会社の主張は採用できない。
                                    (中労委命令書の第45頁)

  3 格差の存否について

 以上のとおり、 (注:再審査被申立人10名) の処遇は、非組合員層を含む役職における格差では(注:1名)を除くと最低に格付けされており、さらに昇給、資格、職群・等級が要素となる基準賃金は(注:他の1名)を除き、実在者の最低賃金に近くか賃金の最低額になっていることからすると、(注:再審査被申立人10名)の処遇は、むしろ概ね中位以上であり、中位・平均から格段に低いとはいえないとする会社の主張は採用できない。
                                    (中労委命令書の第49頁)

  4 本件格差の合理的理由の存否について

  (1) 成果主義的運用と人事権の行使

(エ)  以上のとおり、 (注:再審査被申立人10名) の同期同学歴者それぞれの職群・等級及び役職への昇進時期には差異があり、成果主義的な面があるとしても、従業員の処遇は勤続年数が長くなるにつれ、少なくとも、主事一級、KS職群、主任までは大部分の者が昇格等をするという意味での年功的な運用が行われていたものと認められる。 (注:中略) 
 よって、年功的運用がなされているとの初審判断は誤りであるとする会社の主張は採用できない。
                                 (中労委命令書の第51頁)

  (2)  (注:再審査被申立人10名) の業務遂行状況

(シ)  以上のとおり、 (注:再審査被申立人10名) は、それぞれの業務遂行状況についてできる限りの立証を行った。これに対して会社は、各人のそれぞれごとに、上司の評価において、どのように評価されているか等具体的な根拠を示すことにより本件格差には勤務成績・態度に基づく合理的理由が存するとの立証ができなかった。その結果、上記アからコで掲げた(注:再審査被申立人10名) の業務遂行状況には各人ごとにばらつきが見られるものの、各人とそれぞれの同期同学歴者とを比較してその業務遂行状況が顕著に劣るものとはいえず、資格、職群・等級等についてこれほどまでの差をつける理由は認められないと当委員会は判断せざるを得ない。
                                  (中労委命令書の第71頁)

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  5 不当労働行為の成否について

   エ 結論

 以上のことを総合して判断すると、本件格差は、会社が、特定の思想を持つ従業員の組合活動を労務管理上格別に注視し、東芝扇会を活用の上、これら従業員を 「問題者」 として排除していく中で、職場新聞等編集委員会名義の新聞の配布、労働基準監督署等に対する申告等の組合活動を行っていた (注:再審査被申立人) らについて、会社の施策に対立する独自の組合活動を行う者として嫌悪し、その活動を封じ込め、あるいは弱体化を意図し、その一環として (注:再審査被申立人) らの資格等について不利益な取扱いをしたことによるものであると認められる。かかる不利益取扱い及びこのことに伴う組合に対する支配介入の行為は、不当労働行為に該当するものと解するのが相当である。

 したがって、これを労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為であるとした初審判断は相当である。
                          
       (中労委命令書の第74〜75頁)

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備考 : 労働組合法  (抜粋)

第7条 使用者は、左の各号に掲げる行為をしてはならない。

1. 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱をすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。但し、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。

2. 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。

3. 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。

4. 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立をしたこと若しくは中央労働委員会に対し第27条第4項の規定による命令に対する再審査の申立をしたこと又は労働委員会がこれらの申立に係る調査若しくは審問をし、若しくは労働関係調整法(昭和21年法律第25号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱をすること。

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