残業代不払い法案 (ホワイトカラー・エグゼンプション) など、労働法制改悪の旗振りをしている日本経団連の御手洗冨士夫会長。
自身が会長を務めるキヤノンで、違法性を認識する文書を作成しながら偽装請負を続けてきたことが、しんぶん赤旗・日曜版の編集部が入手したマル秘資料と労働者の証言でわかりました。
「秘」 と書かれたキヤノン人事
本部作成の 「外部要員適正管
理の手引き」。「偽装請負」 は、
「当然違法」 と明記しています |
資料とは、キヤノン人事本部が2006年2月3日付で作成した 「外部要員適正管理の手引き」 です。
偽装請負について、「当然違法であり、職業安定法により罰せられる」 と明記。 「派遣先が1年を超えて派遣を受け入れる場合…直接雇用の申し込みをおこなわなければなりません」 と、労働者派遣法の直接雇用義務も記述しています。
「手引き」 によれば、「キヤノンで働く総要員の約3分の1が派遣労働者と請負労働者」 で、外部要員を 「労働コスト面からも非常に有益」 と位置づけています。
キヤノンの偽装請負が社会的に明らかになったのは、「手引き」 作成から5カ月後の2006年7月末でした。
キヤノンは、2004年から2005年にかけてグループ会社の大分キヤノン (大分県) やキヤノン化成 (茨城県)、キヤノンファインテック (同) で偽装請負が発覚し、本社をふくめて厚生労働省から指導されていたのです。 「手引き」 はこの後につくられています。
同社は2006年8月1日付で社長直属の 「外部要員管理適正化委員会」 を設置。
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請負を派遣に切り替え、「数百人をめどに正社員にする」 (広報部) と説明していました。
ところがその2カ月後の10月、宇都宮光学機器事業所 (栃木県) の請負労働者18人が偽装請負であるとして、直接雇用を求めて栃木労働局に申告しました。
キヤノンでは、偽装請負が続いていたのです。
法律が悪い!?
こうした事態が起きる原因に、政府の姿勢があります。
厚労省は指導した企業名を公表しないため、偽装請負の存在は労働者の告発がなければ表に出ないのが実情です。
御手洗会長は法律違反に反省がありません。
昨年10月、安倍首相直属の諮問機関、経済財政諮問会議でいってのけました。
「(派遣法にもとついて) 正社員にしろと硬直的にすると、日本のコストは硬直的になってしまう。 派遣法を見なおしてもらいたい」 と。
派遣法にもとづく直接雇用義務をはずせ、という主張です。
違法状態を是正するのではなく、法律を変えて合法化しようというのです。
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キヤノン広報部は、「手引き」 について 「作っていて (違法がないよう) 徹底していた」 としています。 宇都宮光学機器事業所の偽装請負については、「厚生労働省が認めた新製品への “技術指導” という範囲であり、(申告者との) 見解の違い」 と偽装請負を否定しています。
直接雇用へ厚生労働省が通達!
厚生労働省は、大企業が違法な偽装請負を逃れるために、請負から派遣に切り替える手法を認めず、労働者を直接雇用することなどを厳正に指導するよう、各県労働局に通達を出しました(3月1日)。
偽装請負を告発して直接雇用を求めてきた世論の成果です。
3月1日から製造業での派遣期間が1年から3年に延長されましたが、それへの対応です。
キヤノンや松下プラズマディスプレイなど大企業は、偽装請負が発覚すると請負から派遣、さらに請負へと切り替えてきました。 偽装請負批判と直接雇用の義務を逃れるためです。
通達は、「派遣可能期間の制限にすでに抵触(ていしょく) している労働者派遣に対しては、特に厳正に指導すること」 としています。
つまり、派遣期間が過ぎていれば、受け入れ企業に派遣への切り替えを認めず、直接雇用義務などの指導を強化する、ということです。
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仕事も会社も好きだから
正社員になりたい
偽装請負を国会で公述した キヤノン光学機器事業所の大野秀之さん(32)
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正社員にしてほしいと話す大野さん
=栃木県宇都宮市 |
栃木県宇都宮市東部に広がる清原工業団地。 その中心にキヤノンの光学機器事業所、宇都宮工場、光学技術研究所が隣接しています。 約8千人の労働者が働き、その半分が非正規労働者といわれています。
午後4時すぎ、日研総業などの請負・派遣会社のバス10数台が宇都宮工場内へ。 4時半、作業を終えた労働者がどっと門からでてきました。 駐車場へ向かう労働者の大集団があらわれ、帰宅する車の列で砂ぼこりが舞い始めました。
20〜30代が圧倒的です。 3人で帰る20代の女性たちは 「請負です。時給? 1,100円くらい」。 ある男性は 「正社員」 とだけ答え、別の男性は 「請負です。偽装請負? 新聞で読んだよ」。
光学機器事業所の請負労働者、大野秀之さん(32) は昨年10月、栃木労働局に仲間と偽装請負を申告し、直接雇用をもとめています。
2月22日には、衆院予算委員会公聴会で公述。 その直後、大野さんに思いを聞きました。
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7年ほど前からキヤノンで働いています。 請負会社と3〜6カ月の契約をくり返してきました。
クリーンルームで防じん服を着て、半導体露光装置の特殊なレンズを研磨し測定します。 レンズの直径は最大35センチ程度、100万分の1前後の誤差しか認められません。
一人前になるには、2〜3年かかります。
昼勤は午前8時から午後8時30分まで、夜勤は午後8時20分から午前8時10分まで働きます。 3勤3休の過酷な仕事です。
私の月給は約29万円ですが、昨年入社した人は22万5千円です。 不安は新人と変わりません。
2005年5月、キヤノンと請負会社は私たちを請負から派遣に変えました。 2006年5月、こんどは派遣から請負に変えました。 なぜ変えるのか、当時はわかりませんでした。
請負 → 派遣 …
気づいたのは、偽装請負が社会問題になった昨年8月。 請負ではやってはならない正社員からの指揮を私たちは受けていました。 偽装請負です。
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キヤノン宇都宮工場から、帰宅する労働者を乗せ
て出てきた請負会社のバス =栃木県宇都宮市 |
2005年に請負から派遣になったのは、大分キヤノンで偽装請負が発覚したからです。 派遣で1年以上働くと直接雇用の義務がキヤノンに生じるので、2006年5月にまた請負に戻されました。
お盆のころ、今度は請負から派遣に変えるといってきました。 偽装請負ではまずいと考えたのでしょう。
私はこの仕事に誇りをもっています。 だからずっと働き続けたい。 仲間との友情を失わないために東京ユニオン(連合加盟) に加わりました (現在、25人で支部を結成=支部長は大野さん)。
10月17日、栃木労働局に偽装請負と直接雇用を求めて申告しました。
翌日、正社員が職場から机ごと移動するなど職場を変更しました。 いまも 「適正な請負」 といって正社員と請負の作業スペースは青いテープで区切られています。
仕事を終えて帰宅するキヤノンの請負労働者
ら=栃木県宇都宮市のキヤノン宇都宮工場 |
キヤノンは私たちとの話し合いに応じてくれません。 それがとっても残念です。
私たちのとりくみがあるのは、光洋シーリングテクノ(徳島県) や、松下プラズマディスプレイ(大阪府) で偽装請負を明らかにした人たちがいたからです。
仕事はとてもやりがいがあります。 キヤノンという会社も好きです。 正社員になってずっとこの仕事をつづけたい。
非正規労働者の長期的な雇用の安定や正社員登用制度、正社員との均等待遇など法的整備をしてほしいと思います。
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