トピックス          2007.3
 キヤノン工場…
    
 
“現代残酷物語
    
登録派遣青年の実態 −大分−
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 非正規雇用の青年たちをバスに詰め込み工場まで運ぶ― 。 彼らはこのバスを “護送車” と呼びます。
 キヤノン会長・御手洗冨士夫氏 (経団連会長) の出身地である大分のキヤノン工場で働く2人の青年が語る “現代残酷物語” ― 。

  天引きで手取り10万 / 歩速も管理

  
バスは “護送車” / 給料日前は空腹

 やせ細った身体に無精ひげ。 長崎県出身の新井亮さん(25) =仮名= は、ワールドインテック (本社・福岡) の登録派遣社員として、国東 (くにさき) 市にある大分キヤノン安岐 (あき) 工場でカメラの組み立てをしています。 請負・派遣会社の登録派遣社員となって2年。 今は 「その日その日の生活で精いっぱいです」 と静かに語りだしました。

キヤノンの工場がある
大分県国東市と大分市

   貯金できず

 「月20万円可 寮完備」。 キヤノンの派遣労働のうたい文句です。 請負・派遣会社の事前説明では、月18万円でした。

 寮は、会社が借り上げた民間アパートでした。 6畳1間の狭い部屋です。 しかも、寮費が月額2万6千円も天引きされます。 テレビ、冷蔵庫、布団などの備品リース代も天引きされ、実際の手取りは10万円そこそこ。 「貯金なんてとてもできません」


午後11時、キヤノン大分工場に若者を運ぶ
マイクロバス
 =3月22日、大分市の工場入口
 勤務は2交代制です。 朝5時前に寒さに震えながら、集合場所のコンビニに向かいます。

 同じような若者たちがどこからともなく集まり、派遣会社のマイクロバスに乗り込みます。 彼らは、このバスを “護送車” と呼びます。

 会話もなく工場に。 その仕事は秒単位で追われ、まるで 「刑務所の労働」 のようだといいます。

 すき間なく並べられた幅60センチメートルの1人用の作業台。 肩を寄せ合うように労働者が作業台の前に立ち、隣から手渡されたカメラを手にとり、黙々と細かな作業を続けます。

 2時間働いて10分の休憩。 休憩時間も、始業5分前にチャイムがなり、持ち場につくといいます。 「タバコ1本も吸えない」。


町中のスーパー駐車場で、工場から載せた
若者を降ろすマイクロバス 
= 3月、大分市

 「毎秒 1.79メートル」。 歩く速さまで管理されています。 通路の側面にはセンサーが設置され、労働者が歩くとスピードが表示されます。

 工場と部屋を行き来するだけの生活。 寮のある杵築 (きつき) 市に移ってきて3カ月、町を出歩いたことはありません。

 休日は、カネも、出歩く “足” もなく、部屋で過ごすといいます。

 考えることは?

 新井さんは、ちょっと考えて、「今日は食事を何回抜くかということかな」 と、ぽつり。

 給料日前は、食べる金も底をつき、いつもおなかをすかしているといいます。

 「ほんと、モノ扱いだ。 俺たちをなめている。 日々そう思う。 こんな働き方はもういい。 おれたちを本当になめんなよ!」 … 25歳の若者の叫びです。

   心配する父

 「正社員になりたい。 けど、やっぱり難しい」。 秋野幸一さん(30) =仮名= の希望と現実です。 大分市のキヤノン工場で登録派遣社員として働きます。 25歳の時、大手請負・派遣会社の日研総業に登録。 大分県外でしばらく働き、昨年、地元に帰ってきました。 いま大分市内の日研総業の寮で生活しています。

 派遣会社は寮の合鍵を持っていて、仕事に出てこない若者の部屋を勝手に開けて、仕事に連れ出しにくることもあるといいます。 プライバシーもなく、現代の “たこ部屋” です。

 手取りは月12万円程度。 それでも、病弱な父親のため毎月5万円を実家に仕送りしています。

 「このままの不安定な仕事では、結婚もできない」 と心配する父親。 その顔を思い浮かべると切なくなるといいます。

 マイクロバスで工場を行ったり来たりの生活。 「寮や工場に鉄格子があるわけじゃないけど、見えないオリに入れられてるよう」だとつぶやきます。

 「正直、毎日の生活に追われ、自分のやりたいことが何かを考える余裕がない」 とも。 趣味のドラムをたたく余裕もありません。

 工場では今年、他の工程で働く労働者が 「派遣」 から 「請負」 に切り替わったといいます。


細かい文字で印刷された請負派遣会
社の勤務カレンダー(1年分)のカード

 変わったのは名前だけ。 働く人も仕事内容も何も変わっていないと彼らは口々に訴えます。

 キヤノンは、派遣労働と請負の切り替えを繰り返し、派遣労働なら一定期間たてば会社が直接雇用をしなければならない責任を今も逃れ続けているのです。


 【メモ】

 大分キヤノン工場と補助金 キヤノンは1982年に国東市で、2005年に大分市で相次いで操業を開始し、デジタルカメラの主要製品を生産しています。

 工場で働く 6,850人の労働者のうちの 85%、5,800人が請負や派遣など不安定な非正規雇用の労働者です。 多くは大分県外の若者です。

 地元自治体はキヤノンの誘致にぼく大な税金をつぎ込んでいます。
 大分県の補助金は、工場用地造成費用など約48億円にもなります。


 出典: 「しんぶん赤旗」 2007年3月25日付、  同党のホームページ

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