特集・連載       2007.8

  警察と結んだ
       東芝 思想差別
!!
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                        1. もの言えぬ職場 … 事業所所長が嘆き
                        2. 共産党員排除 … 「公安」出身者が前面に

                        3. 「ルポ」 開発者 … “ヒラ社員”に据え置き
                        4. 企業の社会的責任 … 3度の改善命令に従わず (おわり)

 JR西日本、不二家、コムスン… 大企業などで事故や不祥事が相次いでいます。 社会的責任に背を向けた利益至上主義の経営姿勢と、そのための 「もの言えぬ職場づくり」 がその原因として指摘されています。 電機大手の東芝 (本社・東京都港区) では、警察権力と結びついた異常な職場支配を40年前から続けており、その一掃が焦点になっています。  (中村隆典)

 
1. もの言えぬ職場
      … 事業所長が嘆き

東芝本社=東京都港区

 「なんでも言える職場づくり」。 これが電機大手の東芝が現在最重要課題にしている労務管理政策といいます。

 東芝では一昨年から小向工場(川崎) の火災や京浜事業所(横浜) のガス爆発など重大事故が続出し、成田空港設備の談合事件や、原子力発電所設備の検査データ改ざん事件など不祥事も相次いでいます。

 「職場で自由にものが言えない雰囲気がある」。 京浜事業所所長は、事故や不祥事が多発する背景について、こう言及したといいます。 「もの言えぬ職場」 では、社会的責任やルールを逸脱しても、それをチェックできません。 しかも、ミスや不祥事が発生しても隠すなど深刻な矛盾が広がっているのです。

  労働者の分断

 「ものが自由に言えない職場になったのは、日本共産党員やその支持者に対する思想差別から始まっている」 と労働者は口をそろえます。

 東芝が 「反共労務政策」 と呼ばれる労働者の分断支配に乗り出したのは、東京オリンピックが開催された1964年にさかのぼります。


東芝本社前で差別是正を訴えビラを配
る労働者ら =4月23日、東京都港区
 日本共産党は当時、長時間過密労働や労働災害が広がるなかで、職場の労働者と力を合わせて、安心して働ける職場をめざすたたかいを前進させていました。

 これを抑え、いっそうの労働強化を押しつけるために、たたかいの先頭に立つ共産党と労働者を離反させるのがねらいでした。

 そのやり方は、法律も無視し、公安警察を活用した異常なものでした。 神奈川県警公安警察官だった人物を小向工場勤労課に採用し、日本共産党員やその支持者などを 「問題者」 と決めつけ、排除していく方針をとったのです。

 1964年に小向工場に入社し、昨年定年を迎えた海老根弘光さん(61) は 「入社3年目の67年に元警察官の勤労課員に呼び出され、『公安調査庁から連絡があった。 共産党をやめろ』 と脅されたことをよく覚えています。 ものが自由に言える雰囲気が職場から急速に失われていきました」 と振り返ります。

  「問題者」扱い

 会社の方針や組合の職場大会で少しでも反対意見をいうと、「問題者」 とみなされ、ものが自由に言えない状況がつくられていきました。

 安心して働ける職場をめざして活動するのは、憲法や労働組合法で保障された正当な権利であり、それを妨害する行為は不当労働行為として許されないことです。 しかも、それは会社経営にとっても大きなマイナスになっているのです。

 もの言えぬ職場のもとで、リストラによる早期退職の強要、本人や家族の意向を無視した出向や遠隔地配転の強行、違法なサービス残業の横行や偽装請負などが大手を振って行われました。

 その結果もたらされたのは、相次ぐ事故と不祥事であり、企業基盤を揺るがしかねないモラルと意欲の喪失でした。

 京浜事業所で働く須佐明さん(54) は、こう話します。 「働きやすい職場をつくるためにがんばっている労働者を、逆に 『問題者』 として排除してきたことの誤りは明らかです。 東芝は社会的責任を果たし、異常な職場支配を直ちに改めるべきです」

                                                 (つづく)

 出典: 日本共産党発行の 「しんぶん赤旗」 2007年8月22日付

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2. 共産党員排除 「公安」出身者が前面に!

 「当社の問題者総数は530名」。 こう記した東芝本社勤労部の内部文書が不当労働行為の証拠として労働委員会に提出されています。

 「左派一般情勢と当社の現状」 と題した同文書は、1973年と 75年につくったものでA4判で総数284枚に及びます。

  同勤労部が雇い入れた公安警察出身者らが現職警官とも連携して作成したものです。

  協力者の選定

 会社の意に反する社員を 「問題者」 と決めつけ、事業所、社員寮ごとに名簿をつくり、共産党員が A、民主青年同盟員が B、支持者が C、反戦グループを H などと分類しています。

 名簿には氏名や生年月日などのほかに、組織内の担当名 (支部長とか地区委員など) や自称 (ペンネーム) まで記入されています。

公安警察出身者らが作成した
共産党員や民青同盟員の名簿

 その上、尾行や張り込み、さらに内通者 (スパイ) を仕立てて実態を探らせている経過も赤裸々につづっています。

 ● 日共○○支部の勢力は、男子14名、女子3名と目される。 (尾行と張り込みによる確認と情報による)

 ● 協力者を得たが、組織から相手にされなくなった。 次期協力者の選定にあたっている

 ● ○○の紛失したノートを入手し、職場の努力により入手し、若干の情報を得た

 世界に名だたる大企業がこんな違法な活動を行っていたのです。

 これらの違法活動の中心的役割を担ったのが神奈川県警公安警察出身の勤労課員でした。 日本共産党の緒方靖夫副委員長 (当時、国際部長) 宅 の盗聴事件にもかかわった志田鉱八氏をはじめ判明しているだけでも8人にのぼります。

  「脱落工作」も

 さらに、こうした違法活動を担う秘密組織 「扇 (おうぎ) 会」 を各事業所ごとに結成。 こうして得た情報をもとに、狙いを定めた日本共産党員らを職場から孤立化させ、排除していく 「脱落工作」 を行いました。 会員数は最高時で39事業所3,500人を超えていたといわれます。

 扇会発行の冊子 『われわれの基本理念と活動の原則』 には、こう書かれています。

 ● 労組役員とよく連携し、その健全な発展のために協力共同の立場で活動する

 ● 労組の選挙においては、特定イデオロギーを排し、健全思想の人を支持する

 いくら 「健全」 という口実をつけても、労働者を不当に差別し、労働組合に支配介入することは不当労働行為であることは明らかです。

 会社側は内部文書の存在について、「こういう情報を集めたことはあったが、その内容がこの文書と同じかどうか覚えていない」 と、ごまかしの証言をしています。

 しかし、労働委員会の救済命令では内部文書の事実認定をし、「許されない不当労働行為」 と断罪しています。

                                              (つづく)

 出典: 日本共産党発行の 「しんぶん赤旗」 2007年8月23日付

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3. 「ルポ」開発者
      … “ヒラ社員”に据え置き

 いくら業績をあげた労働者であっても、会社の意に反するものであれば、「問題者」 と決めつけて排除する―― 東芝の労務管理がいかに大義のないものであるかが如実に示されています。

 ヒット商品のワープロ 「RUPO (ルポ)」 設計者の羽田和人さん(57) もその一人。 1968年に青梅工場(東京) に入社以来、主にデータ通信の仕事に従事し、数々の表彰を受けてきました。

 ところが、給与は同期入社で最低。平均より約10万円下回っています。 “ヒラ社員” にずっとすえ置かれています。

  表彰式も別人

 ルポが大当たりし、会社から表彰されたとき、羽田さんだけ授賞式から外されました。 書いた取り扱い説明書が新聞社主催の 「第1回マニュアル大賞」 に選ばれた際も、会社は授賞式に別の人物を送りました。

 設計書を書いているのに、「お前は何を書いている」 と上司が後ろからのぞき込むなど常に監視され、職場を離れても尾行されました。

 24歳から52歳まで連続して組合支部執行員に立候補するなど安心して働ける職場づくりを訴える羽田さんを抑え込むための差別でした。

 「活動をやめないか。 そうすればどんどん上にあがる」 と会社側から一度ならず持ちかけられましたが、「働く者を裏切るようなことはできない」 と断りました。

 「まじめに働いているのに差別され、それではいい商品をつくるチームワークも生まれません。 会社は自らの足元を掘り崩していることを思い知るべきです」と羽田さんは話します。


東芝本社前で 「私は42年間差別を受けてきた」 と
訴える石川要二郎さん =5月24日、東京都港区
 15歳で東芝旧鶴見工場(横浜市) に養成工として入社した石川要二郎さん(59)。

 長年、発電機の溶接業務に従事。 全国38ヵ所の発電所に出張し、出張期間が年間100日以上にのぼった年もありました。 各種検査は常に良好な成績をおさめ、信頼を集めていました。

 「特別の困難な仕事もこなしてきたし、他の人に負けない自信もあった」 と自負します。


 しかし、技能訓練校卒業者50人全員が社員2級に昇格されたのに、ひとり社員3級にとめおかれました。1年遅れで社員2級となり、その後も1級上がるのに、普通なら2年程度なのに5年もかかるなど不当な差別を受けてきました。

  両親呼びつけ

 同期でただひとり役職にもつかなかったため、給与は同期入社の平均と比べても月9万円近く下回っています。 累計すると約5,500万円にのぼるといいます。

 石川さんは若いころ、教育課に呼び出され、「活動をやめないと今後の会社生活は大変苦しいものになる」 といわれたことをよく覚えています。 是正を申し入れたとき、上司は 「実力からいって君の言い分はもっともだ。 私も努力したけど勤労課が納得しないから」 といいました。

 「こんな職場で本当にいい物づくりができると思っているのでしょうか。 事故や不祥事が相次ぐごとに胸が痛みます。 差別をなくし、だれもが分け隔てなく働くことができる職場であってこそ、社会に役立つ物づくり、信頼される企業経営が生まれるはずです」 と石川さんは話します。

 女性も賃金・昇格差別にとどまらず、退職に追い込むためにあらゆる嫌がらせを受けました。

 公安警察出身の勤労部員を女性社員の実家に差し向け、「娘さんは悪いことをしている」 といいくるめ、娘を連れ戻すよう両親を呼びつけることもたびたびでした。

  
鉄の扉の倉庫

 産休明けに暖房もない鉄の扉に小窓が1つあるだけの倉庫係に配転し、一人閉じ込められた女性もいました。

 川崎市のトランジスタ工場に入社した柴田和子さん(62) は新婚当時、2交替から昼勤への異動を申し出たところ、「君を引き取る職場がない」 といわれ、旋盤工の仕事をさせられました。

 「一日中の立ち作業と、油の臭いに音をあげて辞めるだろうと思ったのでしょう。 つわりのひどい妊娠中は大変でした。 だれもが社員として大事にされ、自分の仕事に誇りが持てる会社であってほしい」と話します。
                                                (つづく)

 出典: 日本共産党発行の 「しんぶん赤旗」 2007年8月24日付

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4. 企業の社会的責任
      … 3度の改善命令に従わず

 「会社の施策に対立する独自の組合活動を行う者を嫌悪し、その活動を封じ込め、あるいは弱体化を意図し、資格、賃金などについて不利益な取り扱いをするのは不当労働行為にあたる」

 神奈川県労働委員会は昨年10月25日、石川要二郎さん(59) ら第2次申立人9人の訴えを認め、こう命じました。

 第1次申立人に対する同県労委命令(2001年4月)、中央労働委員会命令(2004年11月) に続いて、3連続の勝利命令です。


神奈川県労働委員会での第2次申立ての勝利命令を喜ぶ労働者ら=2006年10月25日、横浜市

 東芝が元公安警察官を雇い入れて組合に支配介入し、秘密組織 「扇会」 を使って日本共産党員らを差別・排除してきたことについて、不当労働行為と断罪しました。

 労働者の活動が不当に差別されるいわれなど何もないことについても、中労委命令は 「労働条件の維持改善や経済的地位の向上をめざし、組合の自主的・民主的運営を志向している行為と認められ、全体として組合活動であると判断されるべき」 と指摘しました。

 会社側が 「政党員の政治活動だから救済の対象にならない」 などとすり替えようとしたことを明快に退けたのです。

  異例申し立て

 東芝は中労委命令に従わず、2004年12月に東京地裁に命令取り消しの行政訴訟を起こしましたが、中労委は05年10月に 「労組法で決められた命令の履行義務を果たさないのは許されない。 判決が確定するまで差別状態が継続すれば労働者が受けた経済的損失、精神的苦痛は大きく、回復することが困難になる」 として、同地裁に緊急命令を申し立てました。

 これは極めて異例なことです。 これ以上、差別是正に背を向けることは社会的にも許されないとしているのです。

 差別是正を訴えている労働者は現在、第1次、第2次合わせて12人のほか、社長に連名で是正を申し入れている84人 (うち退職者62人) の 計96人です。 一括した解決を申し入れており、差別賃金の累計額は約26億8,000万円にのぼります。

 東芝の西田厚聰社長は、企業の社会的責任(CSR) やコンプライアンス(法令順守) を強調し、CSRの基本方針として 「基本的人権を尊重し、差別的取り扱いはしない」 を掲げています。

  
法令守り償え

 石川さんは 「法令順守はもちろん、社会的責任を果たさない企業は、その存在自体が許されない時代になっています。 社長の言明が事実なら、3度にわたる労働委員会命令を真摯(しんし) に受けとめ、一日も早く謝罪し償いをすべきです」 と訴えます。

 石川さんらの労働者の生活と権利を守るたたかいは続きます。

 京浜事業所では労働者がサービス残業を告発し、5億円もの未払い賃金を支払わせました。 リストラや出向・配転では、「本人の意思尊重が大前提。強制は許されない」 との立場でたたかい、不当なリストラを許さない力となりました。 昨年、偽装請負を告発してやめさせました。

 さらに長時間労働をなくそうと、うつ病になった女性労働者の裁判闘争を支援し、過労死認定基準の月80時間を上回る時閻外労働を認めている三六協定(時間外労働の労使協定) の見直しにもとりくんでいます。

 こうした活動をする労働者を差別し排除することは、労働者全体に背を向ける許されない行為です。 先日も請負社員から石川さんらの元にメールが届きました。

 「東芝で2年近く働いていますが、毎日遅くまで残業し土曜祝日も出勤を強要されています。 今月も残業はすでに70時間を超えています。 私の周りにはさらに過重労働を強いられている正社員の方もたくさんいます。 全社員が人間らしく働ける職場をめざしてがんばってください」

                                                (おわり)

 出典: 日本共産党発行の 「しんぶん赤旗」 2007年8月25日付

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